葬儀費用の控除は相続税計算の中で遺産額を減らす役割を持ち、控除対象となる支払いは通夜・告別式の費用やお布施、火葬・納骨費用など多岐にわたります。一方で香典返しや法要費用、墓石の購入費用は控除対象外です。領収書がないお布施は支払い記録を残すことで対応します。

相続税の控除は3種類あり葬儀費用は遺産額から引く

相続税の控除には①債務控除(借金や葬儀費用を遺産額から差し引く)、②基礎控除(定額を課税価格の合計から引く)、③税額控除(計算した税額から引く)の3種類があります。葬儀費用は①の債務控除に含まれ、税額から直接差し引くものではありません。

さらに墓や仏壇、生命保険金の非課税枠は遺産額に含めず控除とは別の扱いです。計算は債務控除で遺産額を減らし、その後基礎控除を適用して課税遺産総額を算出します。

相続税の控除の種類と計算の流れ

控除の種類 何を引くか 計算の段階 代表例
債務控除(葬儀費用含む) 借金・未払金・葬儀費用 遺産額から先に引く 借入金、葬儀費用
基礎控除 定額(3,000万円+600万円×法定相続人数) 課税価格の合計から引く 基礎控除
税額控除 計算した税額から直接引く 納付税額の計算段階 配偶者の税額軽減など

相続税がかかるのは約1割。基礎控除と比べて申告要否を判断

2024年に亡くなった人のうち相続税がかかったのは約10.4%にとどまります。遺産の合計から債務や葬儀費用を引いた額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)以下なら相続税はかからず申告も不要です。

葬儀費用を控除することで基礎控除以下となり申告が不要になる場合もあるため、まずは財産の大まかな合計と控除できる費用を整理しましょう。

ただし、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使う場合は、税額がゼロになっても申告が必要です。申告が要るかどうかは、小規模宅地等の特例を適用する前の金額で判定します。

基礎控除の目安(法定相続人の人数別)

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円

控除できるのは相続人と包括受遺者。放棄者・海外在住は例外

葬儀費用の控除を受けられるのは、相続人と包括受遺者(遺言で「財産の何分の何」と割合で受け取る人)のうち、日本に住所があるなど国内外の財産すべてに課税される人です。相続放棄した人は原則として控除できませんが、実際に葬儀費用を負担し、生命保険金など遺贈とみなされる財産を受け取っている場合は、その財産の額から控除できます。

遺言で特定の財産だけをもらう相続人でない人(特定受遺者)や、海外に住んでいて日本の財産にだけ課税される人(制限納税義務者)は控除できません。

葬儀費用控除の対象者別の扱い

立場 控除できるか 備考
喪主を務めた配偶者・子(相続人) できる 負担した額を申告。決まらなければ相続分で按分
喪主でないが費用を分担した子(相続人) できる 分担額を申告
葬儀費用を立て替えたが、遺産分割で故人の預金から精算する予定の子 立て替えた人とは限らない 最終的に誰の負担とするか決めてから書く。決まらなければ相続分で按分(基本通達13-3)
相続を放棄し、生命保険金を受け取り、葬儀費用も払った子 保険金の額から控除できる 相続税法基本通達13-1。ただし保険金の非課税枠(500万円×法定相続人数)は放棄した人には使えない
相続を放棄し、何も受け取っていない子 できない 控除する元の財産がない
遺言で割合を受ける包括受遺者 できる 対象
遺言で特定財産のみ受け取る特定受遺者 できない 対象外
海外在住の制限納税義務者 できない 対象外
遺産が基礎控除以下の家の喪主 控除の手続き自体が不要 相続税がかからないため。相続人どうしの精算用に記録は残す

お布施・通夜振る舞い・搬送・火葬・納骨費用は控除できる

控除対象となる葬儀費用には、葬儀社への支払い(祭壇や棺、式の運営)、火葬料、埋葬料、納骨費用、遺体搬送費用、お布施(読経料や戒名料)、通夜の飲食費(通夜振る舞い)などが含まれます。

お布施(読経料)・通夜の飲食・火葬・納骨・搬送は、相続税法基本通達13-4や国税庁タックスアンサー(No.4129)に根拠があり、言い切れる項目です。戒名料は「葬式に際し施与した金品」にあたるとするのが通説です。精進落としは解説の多くが控除できるとしていますが、国税庁の明文は確認できないため要確認です。

控除できる葬儀費用の主な項目

費用の種類 控除の可否 根拠・備考
葬儀社への支払い(祭壇・棺・式運営) できる 相続税法基本通達13-4(1)(3)
火葬料・埋葬料・火葬場の式場使用料 できる 13-4(1)
納骨費用 できる 13-4(1)
遺体搬送・遺骨回送費用 できる 13-4(1)(4)、TA4129
お布施・読経料 できる TA4129、13-4(2)
戒名料 できるとされる傾向 13-4(2)の解釈による
通夜の飲食(通夜振る舞い) できる TA4129、13-4(3)
死体の捜索費用 できる 13-4(4)
仮葬式と本葬式(密葬とお別れ会など)の両方の費用 できる 13-4(1)の括弧書き
葬儀の手伝いへの心付け・タクシー代 できるとする解説が多い 13-4(3)の解釈。手引きに「タクシー会社などへの支払」
精進落とし(葬儀当日の会食) 要確認 できるとする解説が多いが国税庁の明文は確認できず

香典返し・法要費用・墓や仏壇の購入費は控除できない

香典返しや初七日・四十九日などの法要費用、墓石や墓地の購入費用、仏壇の購入費用は相続税の葬儀費用控除の対象外です。繰り上げ初七日については区別できなければ葬儀費用に含める解説もありますが、国税庁の明文はなく税理士や税務署に確認が必要です。

医学上・裁判上の特別の処置(解剖など)の費用も控除できません。また、生前に買った墓の代金が未払いでも、その未払金を債務として引くことはできません。

控除できない葬儀関連費用

費用の種類 控除の可否 根拠・備考
香典返し できない 相続税法基本通達13-5(1)、TA4129
初七日・四十九日などの法要費用 できない 13-5(3)、TA4129
墓地・墓石の購入費用 できない 13-5(2)、TA4108
仏壇の購入費用 できない 非課税財産、TA4108
医学上の解剖費用 できない 13-5(4)
生前に買った墓の未払い代金 債務としても引けない 13-6、相続税法13条3項
葬儀当日に繰り上げた初七日 要確認 葬儀費用と区別できなければ含めるとする解説が多いが、国税庁の明文なし

領収書がないお布施は支払先・日付・金額をメモして備える

お布施などお寺への支払いは領収書が出ないことが多いですが、控除の要件として領収書が必須ではありません。代わりに、支払先の名称・住所、支払年月日、金額、支払い内容(例:通夜の読経、戒名料など)を記録したメモを用意しましょう。

申告書の第13表には支払先の名称・住所、支払年月日、金額を書く欄があるので、メモもこの項目に合わせておくと転記しやすくなります。誰が払ったかも書き添えておきましょう。なお「メモがあれば必ず認められる」とする国税庁の明文はないため、説明できる記録を残すという考え方で備えます。

領収書のない支払いのメモ例

項目 書く内容の例
支払先 〇〇寺(住職名)
住所 寺院の所在地
支払年月日 通夜・葬儀の日付
金額 お布施・戒名料の額
何の支払いか 通夜・葬儀の読経、戒名など
誰が払ったか 喪主(長男)など

故人の口座から下ろした現金は、亡くなる前か後かで書き方が変わる

亡くなる前に現金を引き出し死亡日に手元に残っていた場合は、その現金も相続財産として計上し、葬儀費用は第13表に記載します。亡くなった後に引き出した現金は死亡時の預金残高に含まれるため、別途現金として計上しません。

どちらの場合も、同じお金を二重に減らさないことが要点です。まず故人の口座の死亡日の残高証明書を取り、亡くなる前に葬儀や入院の準備で下ろしたお金が死亡日に手元にいくら残っていたかを確認します。死亡前後の預金の出金は税務調査で確認される項目です。葬儀代の残りは引き出した人のものではなく、遺産として分け方を決める対象になります。

死亡前後の現金引き出しと申告の関係

場面 預金(第11表) 現金(第11表) 葬儀費用(第13表)
亡くなる前に引き出し死亡日に手元に残る 引き出し後の残高 死亡日にあった現金額 葬儀費用として支払額
亡くなった後に引き出し葬儀費用支払い 引き出す前の残高 計上しない 葬儀費用として支払額

葬儀費用100万円で減る相続税の総額は、試算で10万〜45万円

葬儀費用を引くと遺産額が小さくなり、その分にかかっていた税金が減ります。減る額は「葬儀費用×税率」の単純計算ではなく、法定相続分ごとの取得額がどの税率帯にあるかで決まります。

下の表は、葬儀費用100万円を控除したときに相続税の総額がいくら減るかを速算表で試算したものです。配偶者の税額軽減などの税額控除は考えていないので、実際に納める額の減り方はこれより小さくなることがあります。

葬儀費用100万円を控除したときの相続税総額の減少(試算・課税価格は葬儀費用控除前)

相続人 5,000万円 6,000万円 8,000万円 1億円 2億円 3億円
子1人 15万円 15万円 20万円 30万円 40万円 45万円
子2人 10万円 10万円 15万円 15万円 30万円 40万円
配偶者+子2人 10万円 10万円 12.5万円 15万円 25万円 35万円

負担者は相続人で決める。配偶者負担で効果が消える例も

相続税の総額は遺産全体の課税価格で決まるため、誰が葬儀費用を負担しても総額は変わりません。しかし配偶者の税額軽減などの特例の影響で、負担者によって家全体の納付税額が変わる場合があります。

配偶者の税額軽減で配偶者の税額がもともとゼロの家では、配偶者が葬儀費用を全額負担すると、控除の効果が軽減に吸収されて子の税額が減らないことがあります。ただし配偶者が亡くなったとき(二次相続)まで含めると有利不利が逆になる例もあり、どちらが有利かは家ごとに違います。控除できるのは実際に負担する金額なので、税のためだけに負担者の名義を付け替えず、遺産分割協議書などで負担者と金額を決め、実際の精算も合わせてください。具体的な試算は税理士に依頼しましょう。

負担者による家全体の納付額の違い(試算・単位:万円)

葬儀費用の負担 配偶者の課税価格 子2人それぞれの課税価格 家全体の納付額
配偶者が全額 4,900万円 2,550万円 321.3
子2人が折半 5,100万円 2,450万円 308.7
相続分で按分 5,000万円 2,500万円 315.0

前提:配偶者と子2人、葬儀費用を引く前の財産1億200万円、配偶者1/2・子各1/4で取得、葬儀費用200万円。相続税の総額はどのパターンも630万円で、配偶者の納付額は税額軽減でいずれも0円。端数処理を省いた簡易計算です。

第13表に書き、知った日の翌日から10か月以内に提出

葬儀費用控除の申告手順

  1. 1

    故人の口座の死亡日の残高証明書を取る

    預金は死亡日の残高で財産に入れます。死亡前に下ろして手元に残っていた現金も確認します。

  2. 2

    葬儀費用の支払いを全て書き出す

    葬儀社の請求書や火葬場の領収書、お布施、飲食費、搬送費用などを整理します。

  3. 3

    領収書のない支払いはメモを作成

    支払先名・住所・日付・金額・支払い内容を記録します。

  4. 4

    控除できる費用とできない費用に仕分ける

    香典返しや法要費用などは除外します。

  5. 5

    誰の負担か相続人間で決める

    負担者が決まったらその人の負担額として書きます。決まらなければ法定相続分(遺言があれば指定相続分)で按分して書きます。

  6. 6

    基礎控除と比べて申告が要るか確かめる

    財産の合計(生命保険金は非課税枠を引いた後)から債務と葬儀費用を引き、基礎控除と比べます。

  7. 7

    第13表「葬式費用の明細書」に記入

    第13表「2 葬式費用の明細」に支払先・日付・金額・負担者を書き、各人の合計を第1表「債務及び葬式費用の金額③」欄へ転記します。

  8. 8

    申告期限内(知った日の翌日から10か月以内)に提出

    提出先は相続人ではなく、亡くなった人(被相続人)の住所地の税務署です。期限の日が土日祝日なら翌日になります。

香典・葬祭費・埋葬料は葬儀費用から差し引かなくてよい

香典は遺族への贈与として非課税で、相続財産に含めません。葬儀費用から香典を差し引く規定はなく、差し引かないのが通説です。

健康保険の埋葬料(被用者保険・5万円)と、国民健康保険の葬祭費(金額は市区町村など保険者ごとに異なるため加入先の窓口で確認)は別の制度ですが、どちらも非課税の給付で、葬儀費用から差し引かなくてよいとする見解が一般的です。ただし国税庁の明文は確認できないため、気になる場合は税理士・税務署に確認してください。

控除できない費用を入れると否認され、追加の税金がかかりうる

葬儀費用の控除でよくある疑問と回答

よくある疑問

Q相続税の控除にはどんな種類がありますか?
A遺産額から借金や葬儀費用を引く債務控除、課税価格の合計から定額を引く基礎控除、計算した税額から引く税額控除の3種類があります。葬儀費用は債務控除です。
Q葬儀費用はそもそも相続税から引けるの?
A控除できますが、相続税額から直接引くのではなく、遺産の額から差し引く仕組みです。
Qうちは相続税がかかる?
A遺産から債務と葬儀費用を引いた額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)以下ならかからず、申告も不要です。2024年に相続税がかかったのは亡くなった人の10.4%です。
Qお布施や戒名料は入る?
Aお布施(読経料)は入ります。戒名料も入るとするのが通説です。
Q領収書がないお布施はどうしたらよいですか?
A領収書は必須ではありませんが、支払先の名称・住所・日付・金額・用途をメモして記録してください。
Q香典や香典返しは控除対象ですか?
A香典は遺族がもらうもので非課税のため相続財産に含めず、葬儀費用から差し引かないのが通説です。香典返しは控除できません。
Q葬儀費用は誰の負担として申告すればよいですか?
A立て替えた人とは限らず、最終的に負担することが決まった人がその額を書きます。決まらなければ法定相続分で按分して記載します。
Q申告期限と提出先はどこですか?
A亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地の税務署へ提出します。
Q葬儀当日にした初七日は?
A葬儀費用と区別できなければ含めるとする解説が多いものの、国税庁の明文はありません。税理士・税務署に確認してください。
Q墓や仏壇を買った費用は?
A控除できません。墓や仏壇はそもそも相続税のかからない財産です。
Q相続放棄した場合は?
A原則として控除できませんが、葬儀費用を実際に払い、生命保険金など遺贈とみなされる財産を受け取っていれば、その額から控除できます。
Q亡くなる前に下ろしたお金で葬儀代を払ったら?
A亡くなった日に手元に残っていた現金を財産に書き、払った葬儀代を葬儀費用として引きます。亡くなった後に下ろした分は死亡日の預金残高に含まれるので、別に現金として書きません。

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見積もり前の確認リスト

  • 支払いを全部書き出した(葬儀社・火葬場・お寺・飲食・搬送・タクシー)
  • 領収書がない支払いについて支払先・日付・金額・内容をメモしたか
  • 香典返しや法要費用、墓石・仏壇購入費など控除できない費用を除外したか
  • 葬儀社請求書の繰り上げ初七日や返礼品の内訳を確認したか
  • 相続人間で誰の負担かを決め、負担額を確定させたか
  • 故人の死亡日時点の銀行残高証明書を取得し、死亡前後の現金引き出しを確認したか
  • 基礎控除額と比較して申告の要否を判定したか
  • 申告期限(知った日の翌日から10か月以内)と提出先(被相続人の住所地の税務署)を確認したか